
「2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日」という本を読みました。
読み始めたきっかけは、本屋さんで何となく視界に入ったことでした。
権力のある人が自分語り風に業界を一刀両断するような本は読んでいても途中で飽きてしまうのですが、この本はそうではなく。
客観的な視点も含め、今後日本のアパレル業界がどうなっていくのかを冷静に分析し、課題を挙げ、その解決方法までを書いている親切な本でした。
日本のアパレル業界に対しての大きな愛を感じる本。
だからこそ、ぼくもこの本を読んで1人の消費者として、服が好きな人間として感じたことを記事にしたいと思い、こうして書いています。
ファストファッションとデザイナーズブランドの二極化が進む未来
今、日本のアパレル業界には大きく分けて3つのレイヤーが存在しています。
低価格帯で流行のデザインを提供するファストファッションブランド。
ここにはGUやH&Mといったブランドが所属していて。
高価格帯ではありながらも、それぞれ独自性のあるデザインで洋服を展開するデザイナーズブランド。
ぼくが好きで買う洋服なんかも、その多くはデザイナーズブランドの洋服です。
そして、それらの中間に位置する、いわゆる「セレクトショップオリジナル」と呼ばれる商品やカジュアルブランド。
BEAMSやUNITED ARROWSといったセレクトショップが、自らのブランドを看板に展開している洋服たち。
現在は大きく分けて3つのレイヤーに分けられる洋服の価格帯。
これは今後、じわじわと「ファストファッション」と「デザイナーズブランド」と二極化へと進んでいくように思われます。
これまで中価格帯のブランドを支えていたのは、自分で洋服を選ぶことに対する意思が希薄な「フォロワー層」と呼ばれる人たち。
今後、時代が進んでテクノロジーも進み、AIが進化していくと、フォロワー層は自分たちで服を選ぶよりも、機械や人におすすめされたものを選んでいくようになる。
そんな時代になると、似たり寄ったりで極端な話、「どれを選んでも同じ」ようなデザインの洋服を多く展開している中価格帯のブランドは生き残るのが難しくなっていく。
着る服にそこまでお金をかけなくてもファッションを楽しみたいと思っている人たちに価値を提供できる低価格帯のファストファッションブランド。
もしくは独創的なデザインで服作りを続け、「そのブランドにしかない価値」を提供し続けるデザイナーズブランド。
自分の意思で着る服を選びたいと思っている層のほとんどは、このどちらかに分かれていく。
「洋服に詳しい人たちにおすすめされる」という部分に価値を感じるフォロワー層の人たちにとって、中価格帯の洋服たちは存在意義を定義するのが難しくなっていきます。
ファストファッションブランドは今後も勢力を上げていく。
デザイナーズブランドは、ますます独創性を持って、そこでしか提供できないデザインや価値を貫いていく必要性が出てきます。
二極化が進むことは、ある意味健全なことだと思った
上で書いたのが、本に書いてあった内容をざっくりとまとめたものです。
要するに今までは「とりあえずこれでも着ておくか」で選ばれることが多かった中価格帯のブランドは、AIによるレコメンド機能の進化によって顧客を奪われていく。
結果、ブランドが生き残るには圧倒的な安さという価値を提供するか、他にはない個性を提供するかの二択になっていく、という話でした。
一見厳しいようにも思える話ですが、ぼくはこの状況って厳しいとはいえ健全なものではないかな、と考えています。
それぞれのブランドが、自分たちにしか提供できない価値を明確にしていかないと生き残っていけない。
それは本気の服作りをしているブランドに日の目が当たる、ということでもあると思うんです。
選ぶ側も、ファッションにそこまでこだわりがなければ「レコメンド機能」を使うことで手間が減る。
作る側としては、選ばれるためにはより尖っていかなければならない、という時代になる。
存在意義のはっきりしているブランドだけが生き残っていく。
厳しいようですが、そんな世界の方がアパレル業界は本当に頑張っている魅力あるブランドが救われていく時代になるはずです。
国内市場は縮小し続ける。デザイナーズが目指すはグローバル展開
少子高齢化が騒がれる日本。
洋服を特に買う層は当然若い人たちなので、少子高齢化が進む日本ではアパレル業界の未来は暗いとも言えます。
しかし本には「アパレル業界はグローバルで見ればまだまだ成長市場である」とあって。
今後、デザイナーズブランドがより大きく成長するには、海外展開を視野に入れて動いていくのが大きなポイントとなりそうです。
ぼく自身はブランドをやっている訳ではないので、海外展開するにあたってのサイズ展開の違いや問題は正直、分かりません。
ただ、日本には他の国にはないほどの豊かな文化的背景があって。
それらを生地やデザインと積極的に絡めて、要するに「日本らしさ」を武器とした展開をすれば、世界的に需要のあるブランドはまだまだ作れるとのこと。
日本国内には海外の注目を集める高品質の産地や工場があるが、それを付加価値の高い最終製品やブランドに変えられる企業やデザイナーがあまりにも少ない
本の一説にはこうありました。
テクノロジー×ファッションで世界的な注目を集める「ANREALAGE」や「Sacai」
そこでしか提供できない価値を作り続け、日本のみならず海外からも人気の「visvim」
本の中ではこれらのブランドが素晴らしい例として挙げられています。
もちろん、これらのブランドの真似ではなく、自身のブランドにしか提供できない「日本らしさ」と価値を追求し提供し続けること。
これがブランドとして生き残り、また海外展開をした際にも国を問わず支持され続けるためのポイントだそう。
「日本には他の国に類を見ないほどの豊かな文化的背景がある」
この言葉がとても心に残っているので、ぼくも今はブランドを作るとは考えていなくても、ファッションの観点を持って歴史を学び直すのも面白そうだな、と思いました。
信念を持たないブランドは消滅していくけど、それでいいと思う
最後に内容をまるっとまとめてみると、「信念を持たないブランドは消滅していく」ということだと思うんですね。
でもぼくは、それでいいと思うんです。
「売れるための洋服」を作っていたブランドは、低価格帯のファストファッションが提供するそれに打ち勝てない。
そしてもちろん、想像力を持って独創的かつ唯一無二の価値を提供し続けるデザイナーズブランドの足元にも及ばず消えていく。
それでこそ至って健全で、それぞれが本当に尖っていき、格好いいブランドがたくさん存在する業界であり世の中になっていくはずだからです。
アパレル業界って、トップの企業 (ZARAを展開するインディテックス)ですら全体の2%しかシェアを持たない、極めて細分化された業界なんだそう。
だからこそ、それぞれのブランドが「売れるため」という考えを捨てて、本当にやりたいことを突き詰めていく。
そこには必ず、その信念やデザインに共感して好きになってくれる人がいるから、成り立たせることができる。
「売れるため」が先行した時点で、めちゃくちゃダサいということは言わずもがなです。
あとはとにかく、これだけ素晴らしい技術を持つ工場が国内にはたくさん存在するんだから、それらが評価される世の中にしていく必要があるということ。
そのためにできることを、ファッションブロガーとしてもやっていきたい。
「2030年 アパレルの未来 日本企業が半分になる日」は、そんなことを思わせてくれる本でした。
アパレル業界への強い愛を感じる本。
業界に興味のある人や、ブランドのデザイナーさん、アパレルに関わっている人たちには是非読んでみて欲しい1冊です。

いわはし

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