1冊の小説をきっかけに、被災地まで足を運んできた日のこと。

先日、1冊の小説を読みました。

西加奈子さん著『漁港の肉子ちゃん』

人気テレビ番組でピースの又吉さんも紹介されていたというこの小説。ぼくがその存在を知ったのは、下の動画を見てだった気がします。相変わらずの紗倉まなさんきっかけ。

 

引用:https://www.youtube.com/watch?v=8Nw8BGJJ8OE&t=98s

紗倉まなさんもピースの又吉さんを尊敬されているとのことなので、もしかしたらそれがきっかけだったのかな?と思っていたり。

尊敬している人の好きな本や音楽を通じて頭の中を覗いて、できるだけ近づいてみたいと思う。憧れに自分を重ねてみたいと思うことって、ごく自然なことだと思っています。

音楽にしたって、好きなバンドのメンバーが好きなバンドを聞いてみたり。洋服だって好きなミュージシャンが着ていたことをきっかけにそのブランドに興味を持ってみたり、しますよね。

 

そんなきっかけで『漁港の肉子ちゃん』を読んでみました。

細かい内容の説明や感想に関して、ここでは省略しますが、読み終えたときにぼくはただ漠然と「小説の舞台となった場所へ行ってみたい」そう思いました。

舞台となっているのは宮城県にある女川町という小さな街。海に面していて、日本でも随一の漁港が存在する街です。

漁港の近くにある焼肉屋さんで働く主人公にスポットを当てたお話。

2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた場所でもあります。本書のあとがきでそれを知ったことが、より強くぼくを突き動かした。

気が付いたらぼくは荷物をまとめ、家を出ていました。仙台行きの切符を買って新幹線に乗りました。

 

1日目は秋保温泉へ、2日目は仙台市内に滞在して。特にすることを決めないまま、3日目を迎えようとしていた夜のこと。

「仙台へ来たのはいいものの、そういえば”漁港の肉子ちゃん”の舞台となった場所って、正確にはどこなんだろう?」

そう、この時点ではぼく自身、小説の舞台となった場所を正確には把握していなかったんです。宮城県の海沿い、という、ざっくりとした情報しかなかった。

 

「場所も正確には分からないし、小説も家に置いてきてしまったし、ネットで調べてもいくつか情報がある。どれが本当なのかは正直微妙なところだ」

それに海沿いへ向かうとなれば、仙台市内から電車に乗っても2時間はかかる。遠いし、場所も分からないし、今回は行かずに帰ろうかな・・・。

 

そう思っていたときのことでした。滞在していたホテルでふとテレビを付けると、東北放送の番組『サンドのぼんやりーぬTV』が流れました。

仙台出身のお笑いコンビ、サンドウィッチマンが出演しているローカル番組。

前の番組が終わったらご飯を食べに外出しようと思っていたぼくはなぜか、「30分番組だし、これだけ見たら外に行こう」と夕食を後伸ばしにしたのでした。

 

すると始まったのは女川町の特集。震災から7年、大きな被害を受けた女川の今を伝えるといった内容でした。漁港がある、海の近くにある街。

駅前には飲食店やお土産屋さんが集まっている。

その瞬間、直前までスマホで調べていた内容とテレビ越しに広がる風景がリンクしたんです。ここだ、小説の舞台になった場所はきっとここだ。

 

改めて女川町を調べてみると、1件だけ焼肉屋がそこにはあった。

以前は漁港の近くにあったけれど、お店は津波に飲まれてしまった。だから今は、駅前の商業施設に入ってお店を経営している、とのことでした。

 

大袈裟かもしれないけれど、それを運命のようにも感じた瞬間でした。行くか迷っていたけれど、場所が分かった。

それも軽い気持ちで「これだけ見たら」と夕食を先送りにした番組をたまたま見て、その場所が分かった。

日本人として、一度はそこに足を運ぶべきだと思っていました。あの震災を、多くの人たちが被害を受けた事実を決して忘れちゃいけない。そう思っていた。

翌日は女川へ行くと決めた瞬間のことです。

 

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東日本大震災の被災地、女川町へ

仙台駅から電車を乗り継いで約2時間。女川駅に到着しました。

前日にテレビで見た通りの光景が広がっていました。そして自分の目で見て感じたのは、思っていたよりも綺麗な街並みが続いているということでした。

 

「女川は復興が早い」と言われているとのことですが、確かに駅前の広がりを見ればその通り。

しかしまだまだスーパーなどは少なく、食料を手に入れるには苦労することもあるとのことでした。

だから、簡単に「復活した」とは言えない状況にある。まだまだ頑張っていかなければならない。そう、番組で取材を受けた方はお話されていました。

 

駅前の商業施設『シーパルピア女川』を抜けると、フェンスが漁港をぐるっと囲んでいました。

どこかで途切れるだろうと思い歩いてみましたが、なかなかの距離を歩いてもそれが途切れることはなく、漁港には近づけない様子。

 

辺り一面、何もない平地が続きます。家があるのは山の付近で、高さのある場所。ぼくが歩いたその道まで、津波の被害があったことを再認識させられます。

 

正直、最初は仙台へ行って、秋保温泉に行くくらいだと思っていました。ちょっとした旅行をして帰ってくるつもりだった。

それがどうして女川に足を運んだのか。小説の舞台となった場所へ行って、お店へ行って、そこで焼肉を食べたいというのも理由のひとつ。

 

でもそれが全てじゃなくて、理由のひとつ。他にも何か、大きな理由があったんだと思います。

自分でも言葉にするのは難しいけれど、日本人として”行っておかなければならない”と、義務感のようなものを感じてもいました。

 

駅前の商業施設に並ぶ、色々なお店に足を運んでみました。

「あの被害があったことを絶対に忘れてはならない」そう書かれたTシャツをお店の真ん中に飾っているカフェもあった。

 

この場所に親戚がいる訳でもない。誰か知り合いがいる訳でもない。それでも、そのメッセージはぼくの心に深く入ってきました。

もはや、繋がりはなくていい。同じ人間であって、同じ国に住んでいる。

おせっかいかもしれないけど、それだけで感じる繋がりのようなものを、確かに感じた瞬間でした。

 

小説の世界に入り込んで焼肉を食す

ぼくに何ができるかもわからない。できるとしても、それは本当に小さなことかもしれない。

でも、何だか放っておけないというか。義務感のようなものを感じたというか。この街のために何かできることはないかと思ってみたりもして。

 

できる最善のことといったら、ここでご飯を食べたりしてお金を使っていくことなのかな。

そう思いながら歩いて、本当に見つけたあのお店。『漁港の肉子ちゃん』のモデルになったあのお店。お店の名前は『幸楽』さんでした。

「漁港にある唯一の焼肉屋だから、予約でいっぱいになることがある」

 

今日は人も少ないし大丈夫なんじゃないか?なんて思いながらも、念には念をと、開店2時間前に予約の電話を入れました。

それから駅構内にある温泉に浸かりながらのんびり。開店時間の18時にお店に行く。

 

あった。漁港の肉子ちゃんが飾ってあった。

どうやらここが、本当にモデルになったお店らしい。

 

「本当だったんだ」と安心する気持ちと、高揚する気分。小説の中の世界に、今ぼくはいる。

現実に戻れば、隣には焼肉を楽しむ家族。並ぶぼくは一人ぼっち。人生初の一人焼肉。

 

ただでさえ、その家族のお父さんがぼくを何度も見ては「一人焼肉する人って本当にいるんだ」と鋭い視線を送ってきました。

店員さんに注文をするため、ぼくが口を開けばこちらをちらり。その鋭い視線がなかなかキツくて、その瞬間だけは完全に小説の世界へ逃げ込みたかった。

 

温泉に浸かって心も体も綺麗サッパリになった後で、半分現実、半分小説の世界に浸かって嗜む焼肉。人生初の一人焼肉。

本当はなかなかテンションも高かったのですが、それを顔に出したら確実に家族連れのお父さんに睨まれそうだったので、冷静な顔をして食します。

 

頼んだのはカルビとロース。これが本当に美味しくて、ご飯が進む進む。おかわりをしながらお肉を平らげます。

ビールも飲んで、お会計は全部で2,600円くらいでした。冗談抜きで、こんなに美味しい焼肉は初めて食べたかもしれない。

実は人生で一度だけ、贅沢をして叙々苑で1万円コースを頼んだことがあったのですが、それより美味しかったかも。

 

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不思議な縁に惹かれて旅をしてみたりもいい

お会計の際、レジ前のボトルが並ぶ棚を見上げてみると、そこにも漁港の肉子ちゃんが飾られていました。それも、著者である西加奈子さんのメッセージ入りで。

あとがきを読んで知ったことでしたが、当初『漁港の肉子ちゃん』は日本海側にある架空の場所を舞台に書かれた小説だったそうで。

それが編集者さんと行った宮城旅行で女川に足を運んだ際、漁港に、漁港なのにそこに1軒だけ佇む焼肉屋さんを不思議に思って、そこを舞台の中心にされたそうでした。

 

小説に登場する、幸楽をモデルとした架空の焼肉屋さん『うをがし』

そこで働く、これまた架空の登場人物が小説の主人公、肉子ちゃんなのでした。

後になって、”架空の存在”だったはずの肉子ちゃんに性格の似た陽気な店員さんが、幸楽にも本当にいらっしゃったこと。

そして、その方が津波の被害に遭い、お亡くなりになっていたことを、小説を書いた後で西加奈子さんも知られたといいます。

 

このメッセージは、震災の後で再びお店を訪れた西加奈子さんが残していったもの。

小説との不思議な縁が、そこにはありました。それを読んで女川に足を運んだぼくも、その不思議な縁に惹かれて足を運んだひとり。

これって、とても素敵なことだなって思いました。1冊の小説が被災地に足を運ぶきっかけになって、自分も何かできないかと思って、そこでご飯を食べていくことにしたりして。

女川でお金を使っていく理由があれば、それだけで復興へ向けての力添えができるのでは、とぼくは思っています。

 

1冊の小説をきっかけに、被災地に足を運んできたお話でした。同じ国に住む仲間として、絶対に忘れてはいけない震災のこと。

そこに少しでも力を添えるきっかけを、足を運ぶ理由のひとつをくれたことを、ぼくは『漁港の肉子ちゃん』に感謝しています。

偶然の重なりで生まれた不思議な縁で足を運んだ街、女川。

街で働く皆さんは、震災の記憶を決して忘れないようにしつつも前を向いて、街の復興にへ向けて力強く働かれていました。本当に素敵な街だった。

 

女川に唯一存在する焼肉屋さん『幸楽』は、小説に登場する『うをがし』と同じで、現実でも本当に美味しいお店でした。

ぼくの次に入店したお客さんは「今日は予約でいっぱいなんです・・・すみません」との店員さんのお言葉を受けて、入れなかった様子。幸楽さんに行くなら、予約は必須です。

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いわた (岩橋康太)

いわた (岩橋康太)

就活でアピールできる特技として格好いいことを言うため、大学3年生の夏にブログを始める。結果、40社受けて内定がゼロだったため、やけくそで新卒ながら”プロブロガー”になった23歳。ブログの広告収入で生計を立て、自由な毎日を過ごすも、自分が本当にやりたいことは何なのかが分からずに彷徨っている。洋服が好きで、ファッション専門ブログも運営しています。 ▶︎いわたの偏愛コレクション
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