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いわタワー

服マニア学生ブロガーが洋服に関するあれこれを独特の切り口から記事にしてお届けするファッション系ブログ

”一周回って戻ってくる”Pコートにみる、大人なファッションの愉しみ方

服マニア ファッション
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「ずっと前に好きだったバンドに、一周回って再びハマっている」

皆さんはこんな経験をしたことがありませんか?

ぼくはあります。中学生の頃はよくBUMP OF CHICKENの曲を聞いていて、それからたくさんのバンドを好きになって。

大学生になって、改めてバンプの曲を聞いてみると「ああ、やっぱりいいな」って。

少し大人になって、歌詞の意味が理解できるようになって、曲の素晴らしさを再確認して。

こういうのを”一周回って戻ってくる”なんてぼくは呼んでいます。

 

けれど、これは音楽に限った話じゃないんですよね。

もちろん、洋服においてもそれは起こります。空前のチェスターコートブームな今、ぼくは”あえて”Pコートを買いました。

高校生の頃、初めて冬物のアウターとしてPコートを買って。

それからたくさんの洋服を着て、自分の好みを知って、流行にも乗ってみて。

この歳になって改めてPコートを着ると、どこか懐かしい感覚に襲われました。

当時のぼくが初めてのアウターにPコートを選んだのは確か、雑誌で”冬の定番メンズアウター”として紹介されていたからだったはず。

あれからしばらく経って、再びPコートに袖を通して。

今ならおしゃれに目覚めたばかりだった当時のぼくより、いくらか格好よくPコートを着こなせるようになったんじゃないか。

そんなことを考えながら、数年ぶりにPコートを買いました。

 

TROVEのメルトンPコート

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ぼくが数年ぶりのPコートとして選んだのは、TROVEの定番アイテム。

地元にある、10代か40代以上のおじさんしか喜ばないような服ばかりを売っているリサイクルショップに並んでいました。

そこを覗いても時間の無駄にしかならないことは分かっていて。

なのに、たまの”掘り出し物を見つけ出した感覚”を味わいたくて足を運んで。

これを買って帰ってきたくらいだから、今日はアタリの日でした。

定価はおよそ5万円、オークションで中古を競り落とそうと思っても1万円台後半。

そんなTROVEのPコートが、6,400円で売られていたんです。

元同業者の立場として「これ絶対に中古相場を勘違いしているな」なんて思いながらの、ラッキーな買い物でした。

 

肉厚なメルトンウールを惜しげなく使っている

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たくさん並んだ、様々なブランドのコートに触れる中で、この1着に触れたときは思わず「おっ」と声が漏れそうでした。

ほんの少しのウールに、ポリエステルで人工的に”ウールっぽさ”を足した安物のそれが蔓延する中、この1着だけが本物の風格を持っていたんです。

生地はウール90%にナイロン10%と、特筆すべきポイントはありません。

服作りに拘りを持つドメスティックブランドの間では、ごく一般的な生地です。

しかしこの1着がそれらとも違うのは、近年稀に見るほどの肉厚さ。

40'sの風格をも感じさせる、しっかりと頼りがいのあるメルトンウールです。

それでいてヴィンテージにはない、柔らかく起毛した表面の雰囲気。

ぼくは基本的に、近年のブランドがこぞって発売するウールのコートは”おしゃれ着”と割り切って考えています。

2年ほど前に購入した10万円のチェスターコートだってそう。

一方でこのPコートを見たときには、その考えが頭をよぎりませんでした。

ウールのコートでありながら見た目よりも実用性を第一に優先した本格派。

おしゃれ着としてではなく、真冬でもガンガン着れそうな、頼りがいのある1着だ。そう思ったんです。

 

”これぞPコート”な本格ディテール

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皆さんは”Pコート”が何だかご存知ですか?

そう、これはイギリス海軍が軍服として着るための、また漁師が船に乗るときに着るための服だったんですよね。

だからそのルーツを汲み取ろうと、カジュアルブランドではPコートのボタンに碇のマークが入ったものを使っていたりするんです。

元々は実用性を第一に考えて作られたPコートも、カジュアルな街着として落としこまれる内に”形だけ”になってしまいました。

本来の意図はまるで無視して、実用性はもっと無視して、数パーセントのウールに何十パーセントものポリエステルを配合し”それっぽく”誤魔化す。

ディテールもまるで無視で、変形時に留めるボタンの付いていないもの、はたまた”形だけ”のボタンホールを用意しているものも多数。

そんな”エセPコート”が殆どな今、こうして本当に留められるボタンの付いたそれは珍しいのではないでしょうか。

 

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そんなディテールは再現していても、首元を寒さから守るためのチンストラップが付いたそれはもっと少ないでしょう。

ヴィンテージをも彷彿とさせるメルトンウールに加え、ドメスティックブランドでありながら本来のPコートにおけるディテールを完全に再現したこれには心底驚かされました。

真冬でも頼り甲斐のある1着です。

 

今と昔で違う、ウール生地の使われ方

ここでいう”昔”とは100年ほど前のことでしょうか。

当時は今と比べてウールが貴重だったことはもちろん、その役割は”防寒着”を作ることにありました。

圧力をかけて生地を縮絨させ、分厚く頑丈なそれを元手に漁師が真冬の海へ着て行くためのPコートを作る。

しかし、今はそうではありません。

昔に比べてウールの価格が下がり普及しやすくなったことに加え、Pコートはカジュアルダウンさせるにあたり、誰もが着やすいものにしなくてはなりません。

機能性重視だったPコートは街に溶け込む過程でいつしか”おしゃれ着”に。

それどころか、大半のカジュアルブランドから販売されているPコートにはウールが60%使われていればいい方です。

残りはポリエステルを配合して人工的に”ふわっと”させ、それっぽく見せる。

ウール(ポリエステル配合のそれを含む)は防寒着ではなく、おしゃれ着を作るために使われるようになりました。

それゆえ昔のPコートほど生地の厚みを必要としない。むしろ、おしゃれ着としてのウールには”しなやかさ”が求められます。

今と昔では服作りにウール生地を使う意図がまるで違っているんですね。

もはや実用性を求めてPコートを作るブランドは殆ど存在しないでしょう。

 

”おしゃれ着”のPコートと比較する

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Pコートを久々に買ったと自分で言うくらいなので、1着も持っていないと思い込んでいました。

しかし、クローゼットを覗いてみるともう1着あったんです。

今年の夏頃にオフシーズン価格で買った右側のPコート。まだ外では1度も着ていませんが、こちらはまさに”おしゃれ着”と呼べるでしょう。

せっかくなので、ヴィンテージのディテールを汲み取りながら作られた本格派と、おしゃれ着として作られたそれを比較してみます。

 

iroquoisのPコート

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こちらはiroquoisのPコートです。

定価はTROVEのそれと同じか、こちらの方が少しだけ高かったはず。

ドメスティックブランドの中でも異様なまでに生地への拘りを追求する、ぼくの大好きなブランドです。

生地は同じく、ウール90%とナイロン10%の混合素材からできています。

Pコートは真冬に着るアウターですが、こちらには薄手のウールが使われていることが伝わりますでしょうか。

TROVEのPコートと同じハンガーに掛けていますが、腕部分の生地がハンガーに沿うようにして”落ちて”いますね。

おしゃれ着だからといって咎めるつもりは全くありません。

ドメスティックブランドの服はそれぞれ拘りと目的を持って作られた、それぞれに違った魅力を持つ素敵な服たちだからです。

ちょうどぼくが持っていたこの1着はまさに、ウールが持つしなやかさを表現するため作られたように見えます。

 

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薄手のウール生地だからこそ表現できる、大ぶりで美しい形をした立体的な襟とその動き。

なんとも美しいそれには思わず見惚れてしまいます。

Pコートをこのまま着れば、首元にV字の隙間が生まれるのでマフラーでも使わない限り寒さを凌げないでしょう。

そのため機能性を重視したPコートであれば形を変形させ、寒いと感じたときは首元を守れる仕様になっています。

一方でこちらのPコートの場合、それができません。

むしろ薄手のウール生地による大ぶりの襟を活かすため、その機能は必要ないとデザイナーさんが判断されたのでしょう。

左側の襟についているボタンホールをよく見てください。これは本物ではなく、ステッチを入れた表面上の”フェイク”です。

必要ないと判断し削ぎ取った機能なのに、ステッチでそれを表現する辺りに遊び心を感じられて面白いですね。

 

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薄手のウールが持つ大きな特徴であるしなやかさを、肉厚なメルトンウールで表現することは難しいでしょう。

その代わりと言ってはなんですが、TROVEのPコートでは肉厚なウール生地を活かして襟を高めに設定しています。

これも逆に薄手のウール生地で再現しようとすれば、形を保てずヘタってしまうので難しい。

どちらにも、それぞれの特徴を活かした良さが存在しています。

 

万能アイテムを、あえてシンプルに着こなす選択肢

今なら高校生の頃のぼくより、いくらかおしゃれにPコートを着こなせるんじゃないか。

そんな想いで買ったTROVEのPコートですが、いざコーディネートを組むとなるとシンプルな合わせに目がいきます。

服好きなら、良いモノほどシンプルに着たいという衝動に駆られることも少なくないはずです。

安っぽい服をシンプルに着るのに抵抗があるのはきっと、その安っぽさが露呈してしまうからでしょう。

逆に服好きがベーシックなアイテムにこそ拘りを持って、お金をかけるのはそういうことです。

 

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ボートネックTシャツ:UNIQLO&LEMAIRE / デニムパンツ:A.P.C.

いっそのこと、これくらいシンプルに着こなすのもいいですね。

シンプルなコーディネートにすることで、各アイテムの良さが引き立っています。

飽きがきたらボトムスで柄を入れて遊ぶのもアリ。

アウターに定番のアイテムを選んでしまえば、どこからでも足し算ができて面白いですよね。

 

ファッションも”一周回って戻ってくる”

ぼくが「おしゃれだな」と感じる30代以上の方に共通していることが、たったひとつだけあります。

それは、その人たちのコーディネートは常に”シンプル+α”をベースにしていることです。

ファッションの楽しさを知り始めた20代のぼくは、色々な服に袖を通すたびに新しい自分と出会えるのが面白くて、個性的な格好もたくさんする。

今のぼくには、30代のおしゃれな人がシンプルな格好をするのは”歳と共に服装も落ち着くから”のように見えます。

けれど本当はそうじゃなくて、ファッションは”一周回って戻ってくる”愉しみ方をするものだからなんですね。

色々な服を着て楽しみながらも、やっぱり最後には原点回帰する。

ぼくが中学生の頃にBUMP OF CHICKENが大好きでよく聞いていて、他のバンドを好きになって、再びバンプに戻ってきたのと同じ経験を、30代になる頃にきっとファッションの面でもするはず。

そこに、20代の頃に知った自分の好みや個性をスパイスとして、”+α”の部分として付け足す。

そうやって自身のスタイルを完成させていくのでしょう。

今回買ったTROVEのPコートはポケットからタバコの葉が出てきました。

たぶん、30代の渋いおじさんが”シンプル+α”なコーディネートで着こなしていたんだろうな。

なんて考えながら、ぼくも歳を重ねるのが楽しみになった次第です。

いつか一周回って戻ってくるそのときまで、服に関心を持ってファッションを楽しんでいたい。

ファッションを楽しむものではなく、愉しむものにできる日が来ることを心待ちにしています。